従来魚道の様々な課題を解決した画期的な「棚田式魚道」です。
① 正面からも、側面からも、どこからでも上れる魚道となった。
河川構造物の段差部から下流方向へ扇状に180度に広がる広い上り口を備えたた
め魚道正面からも側面からも魚道内へ上ることができることとなった(写真-1)。
側面から魚道内へ入ることが出来なかった既設の突出型魚道の左右の側面に、
90°タイプの棚田式魚道を補助魚道として設置した事例でも、魚道側面から全体の
3分の2の魚類が魚道内へ上ることが調査により確認できた。
新型魚道が十分な遡上環境と効果を発揮することができることを証明しました。
写真-1:どこからも上れる上り口
② 野鳥の捕食から逃げることが出来る魚道となった。
アユの遡上時期に突出型魚道へ行くと、側壁などに多くの野鳥が集まってアユを捕食
している姿をよく見る。魚道のプール隔壁を流下する水が剥離すると大量の気泡が発
生して魚道プール内を気泡で充満してしまうこととなり、アユが水中を泳げなくして
しまうので、プール隔壁を流下する水は滑らかに流下して気泡が発生しない魚道が良
い魚道とされてきた。
これに比べて棚田式魚道のプール隔壁は多様な形状の自然石の玉石を多く使用して
構成されているためプール隔壁を流下する水は魚道表面が白い気泡で覆われるほど魚
道内を見ることが出来ない流況である(前項・写真-1)。 写真-2:気泡の下の澄んだ層のアユ
そのためか、棚田式魚道には野鳥が飛来して来たことが無い。魚が泳いでいるのを外
から見ることが出来ないので、捕食場所として選んでいないと思われる。
では、気泡があるとアユが水中を見通せないのであれば、魚道としての条件を満たしてないのではないかと思われるかもしれ
ないので、水中から魚道をのぞいてみた。プール隔壁を流下した際に発生した気泡はプール水深が20㎝と浅いため、直ぐに水
面に浮き上がり、気泡の下には澄んだ水の層が有る。
アユはその澄んだ水の層の中を自由に遊泳しているのが確認できた(写真-2)。
③ 自然河川の流量の変化(特に減水時)に対応可能な魚道となった。
従来魚道は突出型で一定勾配となっていたため、自然河川の一定の流量の時しか
魚道としての機能が生かされなかった。これを解決するため、棚田式魚道の魚道
表面の勾配に工夫を凝らした。「縦断方向」より「横断方向」の勾配を急にした
ことで、堰堤の天端を通過して魚道内へ流入する水は、基本的に横断方向へ多く
の水が流れることとなった。
この工夫により、自然河川の流量に変化が生じて流量が減少した場合でも、堰堤
下流側の直下の魚道の間には集水溝が設けられているため、この集水溝に水が集
まって流下することとなった(写真-2)。魚類が遡上できる水深を確保すること 写真-2:堰堤直下の集水溝が遡上経路
ができる機能を備えたため減水時の遡上経路となって、自然河川の流量の変化に
も対応できる魚道となった。
④ プール水深を20㎝程度として魚道プール内に土砂が堆積しない魚道となった。
岐阜大学板垣(平松)研究室と山辰組とで独自に行った研究により、それまで
「魚が上流部のプールに跳躍して移動する際には助走行動をとるため、魚道の「プ
ール水深は60㎝以上」が常識となっていたが、根尾川の堰堤の水叩き部でアユの
遡上を観察していた時、水深10㎝ほどの場所でアユが堰堤に向かって大きく跳躍
しているのを見て「プール水深60㎝の常識」に疑問を感じた。
各種実験の結果、プール水深は20㎝程度の方がアユの遡上行動が活発化すること
も確認できた。
プール水深を20cm程度としたことで、プール内に土砂の堆積が無くなった。 図-1:プール水深20㎝の効果
これは洪水時に魚道内へ流出して土砂はプール内に留まること無く、水の流れに
よりフラッシュアップして下流へと押し流されていくためと判明した(図-1)。
実際に洪水が去った後に魚道を観察に行くと、プール内に土砂が残っていないことが何回も確認されている。
棚田式魚道は国土交通省中部地方整備局との共同開発の魚道です。
全国各地にて採用され豊かな自然環境の保全に役に立っています。
棚田式魚道の間口構造
棚田式魚道遡上調査結果
棚田式魚道は独自の扇形計上で上り口が180度、どこからでも遡上が可能となっています。
従来の魚道は間口の幅が限られており、上り口に辿り着く魚は限られていました。棚田式魚道は魚道の正面、左右どちらからでも遡上が可能となります。堰堤まで到達した魚も呼び水の流れに引き寄せられ両側から遡上をしていきます。
非常に高い遡上効果を生み出す構造となっています。
棚田式魚道の玉石の間(スリット)を遡上する鮎
棚田式魚道は、自然石を用いた独特の構造「スリット付きプール壁タイプ構造」を有しています。自然の玉石によって形成される魚道内の流れは多様なパターンが創出され、魚は自身の体力に合った遡上ルートを探しながら通過する事ができます。
流量の変化に対応できる構造として、魚道表面の勾配について縦断方向より横断方向の勾配を急にしてあります。棚田式魚道の独自の勾配設定により多様な流量の変化にも対応し常に遡上環境を整えています。また堰堤直下の魚道との接続部には「集水溝」を設けています。これにより、河川の流量が極端に少なくなった場合においても、堰堤天端を流れて来た水が堰堤の壁を伝って流下し、集水溝に集まって流れるため遡上に必要な水深を確保できる水量を集めることができます。その水が「呼び水」となって水叩き部に流下するため、魚類は「呼び水」に誘われて集水溝に入ることができるため、そのまま堰堤を超えて遡上をする事ができることとなります。
プール水深20cm程度の設定により土砂の堆積はなし
20cm程度水深設定により鮎など速やかな遡上を行う。
棚田式魚道のプールの水深は20cm程度として設計します。
この設定により、洪水等により土砂が魚道のプール内に流入して来ても、そのまま水の流れに押し出されるフラッシュアップ現象が起こるため、洪水が収まってから棚田式魚道のプール内の確認に行く土砂が溜まっていません。魚道内に土砂がたまらないメンテナンス不要の魚道となっています。
また、遡上調査やアユの跳躍行動の研究にて水深が20cm程度の場合、鮎は盛んに遡上行動を行うことが判明しました。棚田式魚道は各段の水深が20cm程度となっており、魚道内のアユは速やかに魚道の上流側へと遡上をして行くこととなります。
新設の棚田式魚道
180°の上り口を備える
既設の突出型魚道の左右に設置された
90°タイプの棚田式魚道
小規模の河川にて
90°タイプで設置された棚田式魚道
〇 棚田式魚道は扇形の基本構造での新設時はもちろん、様々な種類の突出型魚道の左右の側面にも取り付けることができます。
〇 既設魚道の魚道機能の向上に繋がり、既設魚道を活かすことでコストの縮減にも繋がります。
〇 また河川幅によって180度の間口だけでなく、90度の間口を持った棚田式魚道にするなど様々な設置方法で魚の遡上の手助けを
行うことができます。
棚田式魚道の研究により岐阜大学大学院連合農学研究科自然環境科学専攻(博士課程)を修了。
機能、構造に関する論文、設置後の遡上実験などの数多くの裏付けがあります。
各種データのお渡しもしています。
論文名(一部)
・「棚田式魚道」の水理学的特性と有効性に関する検証
・記録的な大洪水を被った棚田式魚道における被災状況調査結果報告
・平成14年度 根尾川における稚鮎の遡上調査報告書
など
専門製作工場にてコンクリート二次製品化を実現しており、全国各地への出荷を行っています。
現場打設コンクリートでは、魚道としての品質が安定せず、また自然石の配置も困難となります。
山辰組の専門製作工場にて自然石(玉石)の選出、コンクリートを十分に締固め高品質の魚道ブロックとして出荷します。
現場での施工には特殊な技術は不要です。魚道ブロックを敷設しケミカルアンカーと鉄筋にて固定をしていきます。
魚道ブロックとして製品化することで、全国各地に棚田式魚道を提供できるようになりました。これまでの実績においても全国各地の自治体にて採用され設置が進められています。