魚道については様々な形式のものが設置をされてきました。魚道が機能し豊かな自然環境の構築に貢献している箇所もありますが、一方で様々な課題も生まれています。
〇 突出型魚道が設置してある段差部でのアユの行動。
従来の魚道は「突出型魚道」と呼ばれる形式のものが多く、堰堤から下流宝庫に突出して魚道の入り口が下流端に1か所しかない構造です。海から遡上してきた稚鮎のうち、その上り口に偶然に辿り着いた魚は魚道内へ進入できたので遡上することができますが、それ以外の魚はそのまま上り口を通過して進み、堰堤に突き当たって滞留することとなります。
アユは堰堤直下で滞留しながら左岸方向・右岸方向へと方向を変えて上流への遡上経路を探しますが、魚道には左右の側壁があるため、横断方向からの魚道に入る遡上経路が無い。このような状況の時に堰堤壁面から流下する水に向かって飛び跳ねている光景がよく見受けられます。初夏の風物詩としてマスコミなどで取り上げて映像が流れることがありますが、実は飛び越えることができない堰堤に向かって次々と飛び跳ね続けている姿なのです。
〇 アユの跳躍のための助走のため60㎝以上のプール水深が必要とされてきた。
大雨の影響により洪水が発生すると、洗堀された土砂が魚道内部に流れ込むことになります。従来の魚道のプール水深はアユが上流側のプールに移動するために行う跳躍(ジャンプ)に必要な助走のためプール水深は60センチ程度に設計されていた。
洪水などで洗堀された河床土が魚道内部に流入すると、プール内に堆積して助走に必要なプール水深60㎝が確保できなくなることがありました。水深が深いプールに堆積した土砂は自然の成り行きではプール内部から出されることはないため、アユが跳躍できるように魚道機能を維持するため跳躍できるように、堆積した土砂を人力によりプールの外へと出す作業が必要となるため維持管理が必要となりました。
〇 自然河川の段差部に設置された従来魚道は、河川の一定の流量の時しか魚道として機能しなかった。
自然河川の流量は常に一定ではありません。晴天が続けば河川の流量は減り、雨や雪解けなどで水が増えれば河川の流量も増えてきます。河川の流量が変化すると魚道内に流れ込む水量も変化します。流れ込む流量が少ない場合、魚道内で遡上に必要な水深が確保できなくなる状況が発生します。また流量が多くなった場合は、流速が早くなり遡上に適さない速さとなる場合があります。自然河川の流量の変化に幅広く対応できる魚道が望まれることとなりました。
魚道の種類が様々あるなかで、それぞれの魚道に共通する課題、個別の課題があります。
その中で上記に挙げた3つの課題は魚道の機能に大きく影響する課題です。これらの課題を解決する魚道として開発されたのが
棚田式魚道です。上の項目「棚田式魚道とは?」をクリックしてご覧ください。
室内実験におけるアユの跳躍行動に関する画像解析
Image Analysis of Springing Sweetfish in Laboratory Flume
馬渕和三* 板垣 博** 平松 研** 櫛田知佳**
Kazumi MABUCHI*, Hiroshi ITAGAKI**, Ken HIRAMATSU**, Chika KUSHIDA**
* 岐阜大学大学院連合農学研究科/株式会社山辰組,The United Graduate School of Agricultural Science,
Gifu University./Yamatatsu-gumi Construction Company
** 岐阜大学農学部, Faculty of Agriculture, Gifu University
キーワード:魚道,アユの跳躍,プール水深 写真-1:水深10㎝から跳躍するアユ
1.はじめに
アユが階段式魚道を跳躍せずに遡上するためには越流水深が30cm以上必要であり,休息や敵切な遡上誘導のためにプール部の水深は1.0m1)あるいは60~80cm2)とするのがよいとされてきた.しかし,河川構造物の状況によっては十分な水深をとることができない場合もあり,階段式魚道においてもしばしばアユの跳躍が見られる3).
木曽川水系揖斐川支流根尾川における床固工直下流に設けられた水叩工部では,観察時において水深が,第3床固工右岸側が10cm程度,第7床固工右岸側が水深20cm 程度,第8床固工右岸側が15cm程度であるにもかかわらず,大量のアユが跳躍を繰り返しているのを確認した(写真-1).さらに第3床固工左岸側においては,水深が80cm程度の深さがあった.水中を観察したところ,水深が80㎝あれば助走ができるにもかかわらず, 水面付近のアユがいきなり跳躍するという行動が多く見られた.
すなわち,これらは跳躍にあまり大きな水深が必要でないということを示唆している.また,これまでの実験により,魚道距離が大きくなければ,アユはあまり休息をとらずに一気に魚道を遡上する傾向が見られることが分かっている.これらのことから,段差および魚道距離があまり大きくないプールタイプ魚道では,ある程度の跳躍を容認することにより,越流水深およびプール水深を小さくすることが可能ではないだろうか.本研究では,前提条件となるアユの跳躍特性を室内実験および事後処理である画像解析により検証することを目的とする。
2.室内におけるアユの跳躍行動実験方法
実験では,アクリル製の水路(幅30 cm×長さ180 cm×高さ50 cm)の上下流に水槽を設け,水を上流側の水槽からアクリル板斜面(幅30 cm×長さ85 cm,傾斜角度約60°)に沿って流下させる.また,水路下流端の水深調節板により水面高さを,インバータ付ポンプで流量を調節する(図-1).この水路に慣らし泳ぎを済ませた供試魚(琵琶湖産養殖アユ,平均全長12cm,23~50匹)を遊泳させ,跳躍する状況をビデオカメラで撮影,解析する.
図-1:アユの跳躍実験水路
3.アユの跳躍行動とプール水深
録画したビデオ画像を1/30秒単位に分割し,各コマにおけるアユの頭部(重心部)をプロットすることによりアユの跳躍軌跡および遊泳速度を求めた.(写真-2)は最も浅い設定の水深13 cm,流量3.03L/sの場合の跳躍軌跡例を示したものである.跳躍を「魚体が水面より上に出る前の最終動作」,跳躍のための助走を「時間変化に伴い遊泳速度が上昇していくこと」と定義して,解析を行った結果,どの跳躍においても,跳躍直前まで不規則に遊泳速度が増減しており,アユは助走をせずに跳躍するとの結論に達した.
写真-2:アユの跳躍軌跡
一方,(表-1)にあるように,流量によって跳躍高度に差は出なかったものの,流量3.03L/s時に,水深24cmと13cmでは平均7cm程度の差が見られたため,さらに跳躍の角度と距離について調べた結果,同ケースでは角度に平均61度と44度という差が見られるが,距離は大きく変わらないことが明らかとなった.すなわち,魚道プール部には,助走のための水深は必要ないが,必要な跳躍角度を得るための水深が必要であるといえる.
一方,(表-1)にあるように,流量によって跳躍高度に差は出なかったものの,流量3.03L/s時に,水深24cmと13cmでは平均7cm程度の差が見られたため,さらに跳躍の角度と距離について調べた結果,同ケースでは角度に平均61度と44度という差が見られるが,距離は大きく変わらないことが明らかとなった.すなわち,魚道プール部には,助走のための水深は必要ないが,必要な跳躍角度を得るための水深が必要であるといえる.
具体的にアユの跳躍に必要な魚道のプール水深(以下,最小水深)を求めるため,以下の計算を行った.実験で得られた水面から跳躍開始時点のアユの頭部までの垂直距 図-2:跳躍に必要な魚道のプール水深
離とアユの平均全長の跳躍角度正弦距離を加算したものを最小水深とする(図-2).
実験結果全体の平均値から算出したところ,最小水深は18.2cmとなった.アユの全長分の距離を除くと頭部から水面までの水深は8.6cmとなる(データの中には0cmというものもある).跳躍開始前のアユの姿勢は水平方向を保つもの,斜め横向きになるものなど様々であるが,水面に垂直に向かうものはいないため,この算出結果でも実際の最小水深に比べて余裕があると考えられる.
4.まとめ
従来の多くの階段式魚道はプール水深60 cm~80 cmを確保して設置されてきたが,状況に応じては20cm程度のプール水深で魚道を設置することが可能であることが明らかとなった.このような魚道では,建設コストの大幅縮減,プール内に堆積する土砂の除去作業の省略など,多くの利点が考えられる.現地データをさらに収集することにより,跳躍行動をさらに明確にしていきたい.
参考文献:1)農業土木学会:農土ハンドブック,256-259, 1989/ 2)ダム水源地環境整備センター編,最新魚道の設計,242-243, 1998/ 3),小山長雄,アユの生態,中公新書,1978